出演者のことば※プログラム①〜⑧
- 会 ひまわり

 - 10月20日
 - 読了時間: 8分
 
プログラム①〜⑧の「出演者のことば」を掲載させていただきます。
①
モーツァルト/四手のためのピアノソナタK.521 第1楽章
塚本久美子
一瀬圭子
モーツァルトは四手のためのピアノソナタを少なくとも6曲は作曲したといわれていますが、最初の曲はなんとモーツァルトが9歳の時だったそうです。
本日演奏いたしますこの曲は31歳の時にウイーンで作曲されています。
最初は2台のクラヴィーア(ピアノ)のために作曲したそうで、モーツァルトの親友であり弟子でもあったジャカン兄妹に献呈されています。
第1楽章は、ハ長調の持つ「安定した、明るさや純真さ」といった性格を感じる曲風で、ユニゾンで力強く始まります。
連弾は二人で一つの音楽を創り出し、掛け合いの楽しさやソロでは出せない音の広がりを味わうことができます。
オープニングに相応しい、華やかさもお届けできたら幸いです。
②
シューベルト/即興曲 作品90 第3番
田岡亜弥
31年という短い生涯だったシューベルトですが、亡くなる前年、歌曲集『冬の旅』と同じ1827年に、即興曲を2作品、8曲を作曲しています。音楽評論家のアルフレッド・アインシュタインはこれらを〝シューベルトがピアノで語った最後のことば〟と評しています。
この作品90-3は歌曲の王と呼ばれたシューベルトらしい無言歌の形になっていて、旋律は、シューベルトが好んで用いたダクテュロス(長短短)のリズムから始まります。最後まで一貫した小川が流れる様な穏やかな曲調の内声に支えられて旋律が奏でられますが、変ホ短調、変ハ長調、変イ短調への転調によって、様々な感情の変化が表現されている美しく奥深い曲です。
私にとって、一生弾き続けたい曲のひとつです。シューベルトの思いを想像しながら、私自身の気持ちを重ねて、
お届けできればと願っています。
③
シューマン/幻想小曲集 Op12より「夕べに」「飛翔」
麗音 めぐみ
この曲集は1837年、シューマン27歳の時に作曲されました。全8曲それぞれに想像力を掻き立てられる様なタイトルがつけられていて、シューマンの幻想的な世界へいざなわれます。
『夕べに』
Sehr innig zu spielen (非常に心を込めて弾く)
3連符が右手左手と最後まで 途切れることなく続きます。時折、左手の高音が右手を超えて複雑な音の重なり合いが作り出されているのが特徴です。平和で緩やかな雰囲気ですが、時折出てくる不協和音が夢と現実の狭間を行ったり来たりする様な雰囲気を漂わせています。
移ろいやすい心や、内面的な「平和への祈り」を表現する思いで演奏したいと思います。
『飛翔』
Sehr rasch(極めて速く)
タイトルの「飛翔」はシューマン自身の精神性を表している様に思われます。
冒頭のリズミカルなモチーフはペガサスが地を這いながらそして力強く飛び立とうとする姿が思い起こされます。繰り返されるオクターヴ跳躍は理想に向かって迷いなく突き抜けるような感情の高ぶりを感じます。
シューマンはクララへの手紙の中で「最後にはあなたをめぐる苦悩が回帰して…鐘が鳴り響く」〈シューマン全ピアノ作品の研究より〉と述べています。ベース音の急下降とともに人間的な苦悩を表現するかのように音楽が一変します。最後は勝利を手に入れ確信に満ちて誇らしく結ばれます!!
鈴江先生、デームス先生の思い出が沢山詰まった曲です。心をピュアにしてシューマンのファンタジーな世界を表現したいと思います。どうぞお愉しみ下さい。
④
ショパン/舟歌Op.60 嬰ヘ長調
岡部晴栄
この曲は、ショパンが肺結核を患い、愛人ジョルジュ・サンドとの関係も冷え込んでいた最晩年に作られた曲です。舟歌はもともとヴェネチアのゴンドラの船頭の歌でしたが、その舟歌風のたゆたうような伴奏に乗って、彼の人生の苦しみ、悲しみ、孤独とともに、それらを受け入れ、乗り越えようとする高貴な精神も同時に表現されています。微妙な表情の移ろいが紡ぎ出されていく曲で、とても繊細でデリケートな美しさを持った曲です。序奏から始まり、息の長い旋律が歌われ、巧妙な転調や中間部、輝かしい新主題などが展開されていきます。
ショパンは、生涯にわたってさまざまな曲種のピアノ作品を手掛けましたが、『舟歌』と題された作品は晩年に書かれたこの曲だけしかありません。
ピアノ演奏の高度な技術と表現力が要求される難曲であり、ショパンの晩年の精神を宿す傑作とされています。
キラキラとした宝物がいっぱい詰まったような、また、ショパンが『人生は美しい!』と言っているかのようなこの作品を、大切に、美しく演奏したいと思いますので、小舟に揺られるような気持ちで聴いていただけたらと思います。
⑤
ブラームス/6つの小品Op.118より「間奏曲」第1番 第2番
片平昌美
この「6つの小品」はブラームス最晩年の作品の一つで4つの間奏曲とバラードとロマンスが収められています。若かった自分を懐かしむような穏やかな哀愁に満ちた旋律が心に深く残る作品です。
「第1番」 テーマのメロディーは、単純でありながら、左手は音域も広く、巾のあるアルベジオで、華やかに彩ります。
中間部は、左右のアルベジオが絡み合い、不協和音も響かせながら激しく動き、テーマに戻ります。
短いですがその情熱的な曲中に緩急をつける難しさがあります。最後は余韻を残し「第2番」の主和音を導き出すかのように終えます。
「第2番」 初めてこの曲を聴いた時、なんとも言えない
オレンジ色の暖かさを感じました。
「愛情をこめて」という楽語を表している通り、何とも言えぬ優しさと切なさを帯びています。クララへの美しい愛情が隅々まで満ちているようです。
呼びかけるような優しいテーマは、短いフレーズが4回繰り返されますが、その中での、cresc.やdim.などが、細かく書かれていて、とても複雑です。
中間部は、まさに心の葛藤を表す波打つようなフレーズから、鎮めようとするコラールに続いて、また激情が溢れてくる、、、
左右の内声には、「こんな所にもメロディーがカノンのように組み込まれているの?」と発見の連続で、深く考えられた緻密な音の構成は難しく、でも、それがまたとても魅力的です。
私も愛する人たちに優しさと深い愛情を胸に、演奏できますように、、、
心からの感謝を込めて、皆さまにも暖かい気持ちになっていただけるように演奏したいと思います。
⑥
F.クライスラー/プレリュードとアレグロ(プニャーニの様式による)ト短調
ヴァイオリン 松田美奈子
ピアノ 塚本久美子
1875年ウィーンで生まれたフリッツ クライスラーはヴァイオリニストとして有名ですが、ヴァイオリンの名曲もたくさん作曲しています。
13歳でアメリカデビューを果たしましたが、20歳までに医学や絵画等を勉強し、軍隊にも入りました。
21歳からはヨーロッパとアメリカで活躍しました。
彼はバロック時代の作曲家の作品をいくつか研究し、発掘しています。この曲も、その内の1つです。
名曲で、パガニーニ風の技巧的なパッセージと感情豊かな旋律が特徴で、多くの演奏家に愛されています。
ひまわり会でこの曲を演奏できることを喜びとし、美しく豊かな演奏になるように心がけたいと思います。
⑦
ドボルザーク/スラブ舞曲Op.72-2
片平昌美
山脇育子
「スラブ舞曲集」はチェコの民族舞曲の要素を取り入れて作曲された全16曲の舞曲集です。
ドヴォルザークは30歳代半ばを過ぎたころ、ドイツ音楽の巨匠だったブラームスに認められ、その後、舞曲集を作曲することを勧められました。
この曲は第2集の2番にあたります。哀愁に満ちたテーマは、誰もが聴き覚えのあるメロディーで、数年前にも、ドラマ「のだめカンタービレ」の挿入曲としても使われました。ドヴォルザークは、「国民楽派」と呼ばれる作曲家ですが、優雅で民族色豊かな祖国、チェコの民謡や舞曲の雰囲気をふんだんに取り入れています。
中間部は、祖国の誇りを堂々と歌い上げる「国歌」のようなメロディも現れます。
プリモとセカンドは、交互にメロディを分担して、内声部にテーマが隠れていたり、互いのパートでわざとリズムがずれていたり、、と、はみ出しも魅力の一つです。
メロディがどんどん展開し魅了されて演奏者の気持ちも前へ前へと進んでいきます。
小さい頃から、長年、鈴江先生のご指導をいただいた私たち二人で、今回連弾を組ませていただいて、とても楽しく取り組むことができました。
「いつも楽しくね」と仰っていた鈴江先生のお言葉通り、皆さまにもお伝えすることができれば幸いです。
⑧
ドヴォルザーク/スラブ舞曲Op.72-8
増尾真里子
荻野育子
1878年、ドヴォルザークは「スラブ舞曲」第1集(op.46)をピアノ連弾曲として書きました。
ボヘミアの民族舞曲に着想を得たこの作品集は、彼の名を一躍有名にし、同年彼自身により管弦楽に編曲されます。
世界的な成功をおさめたドヴォルザークは、より深い表現を求め、1886年「スラブ舞曲」第2集(op.72)を出版します。
op.72の8曲は彼のより内面的・詩的な世界観が感じられます。
8番はこの作品集の終曲ですが、華々しいフィナーレではなく、人々の生活の中にある自然な表現が重視されています。
繊細で夢見心地なメロディがゆったりと歌いだされ、優しく流れる3拍子は故郷への優しい眼差しに満ちています。中間部は旋律が高揚し、内面のときめきや希望を感じさせ、村の踊りのようなリズムもでてきます。
最後は夕暮れを思わせるように、温かく、静かに、余韻を残しながら消えていきます。
聴く人の心にそっと寄り添うような、温かく、懐かしい、詩的な音楽が表現できれば…と思います。



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